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任意整理 手続きのこんな運用

期待理論と市場分断仮説のどちらの現実妥当性が高いかは、政策的に重要な意味を持ちます。
なぜなら、市場分断仮説が正しければ、短期金融市場と長期債市場で逆方向の公開市場操作を行うことにより、金利の期間構造に影響を与え得るからです。 一方、期待理論が正しければ、中央銀行は短期金融市場にのみ働きかけることにより、金利全般に大きな影響を及ぼすことができます。

これらの点から、この問題が極めて重要であることが理解されるでしょう。 また、短期金利の振幅が時期によって変わるとすれば、資金を長期的に運用することのリスクを補償するために支払われる活動性プレミアムもそのときどきの金融情勢によって変動するのではないか、という疑問が生じます。
つまり、短期金利が安定的で将来もあまり大きく振れない、と考えられる場合には、保有長期債を途中換金する場合にも、差損発生のリスクが小さいからリスク・プレミアムも小さくてよいのに対し、短期金利が不安定で将来も大きな振れが予想される場合には、保有期債を途中換金する場合にも、差損発生のリスクが大きいからリスク・プレミアムも大きくなければならない、というわけです。 ちなみに、米国連邦準備制度理事会は一九七九年一○月末に、金融調節方式を変更したため、短期金融市場金利が激しく乱高下しましたが、一方、八○年代に入って、長期金利はインフレ期待を差し引いた実質金利でも異常な高水準が続きました。
このため、このふたつの事実を結びつけ、短期金利の乱高下がリスク・プレミアムを高めて、長期金利の高止まりを招いたのではないか、という議論も注目を集めました。 この時期はいわゆる平成不況の深刻化による先行きの期待インフレ率の低下につれて、利回り曲線が下方シフトしていることがみてとれます。
このように、わが国の金利の期間構造は、ある程度は期待理論の枠組みで説明できるものと考えられますが、期待理論のわが国における現実妥当性を弱める要因として、機関投資家の直利志向がしばしば挙げられます。 そこで、その点について簡単に説明しておきましょう。
直利志向わが国の一部機関投資家は決算に評価益をたてることができなかったため、決算上、利益がすぐに表れる高直利債を好む傾向があり、それゆえ、期待理論のわが国における現実妥当性は高くない、と言われてきました。 直利志向をもたらす制度的要因の具体的な例としては、生命保険・損害保険会社の営業を規定してきた旧保険業法の八六条が、「保険会社ハ、財産ノ評価替エ又ハ売却ニョリ計上シタル利益がこれより計上シタル損失ヲ超ユルトキハ其ノ差額ヲ準備金トシテ積立ツルコトヲ要ス」となっているため、償還差益などの資本利得は、原則として準備金として積み立てざるを得ず、利子・配当などのインカム・ゲインのみが契約者への配当原資となってきたことが挙げられます。

これとの関連で、これらの機関では、資産運用の業績表示にも《資本利得(キャピタル・ゲイン)を無視したハーディー方式と呼ばれる利回りの公表を義務づけられてきたため、これが契約者側の評価基準となることもあって、直利志向が強く、資本利得を生むアンダー・パー債券を好まないという背景がありました。 改正された新保険業法下での保険会社の行動はまだ未知数ですが、こうした直利志向は生・損保に限らず、投資信託、年金信託も安定高配当重視の観点から同様の傾向を持つなど、程度の差こそあれ、わが国金融機関が共通に持っている傾向であると言われてきました。
このような制度的要因は債券間の本来の利回りに基づく金利裁定にひずみをもたらし、企業・金融機関の経済合理的な行動を妨げる可能性があります。 しかし、このような場合、市場にはなんらかの超過利潤が存在します。
そうであれば、このような制度・慣習は長期的には維持困難なものと言えるでしょう。 実際、七九年以降の金融引き締め期には、当時、相対的に直利が低かった六・一国債や六・六国債の市況低迷と機関投資家の直利志向がクローズアップされると同時に、それによって生じる償還差益の膨張に目をつけ、超過利潤を入手しようとする活発な動きがさまざまな分野でみられました。
例えば、証券業界は、八一年一○月、新国債ファンドを開発、機関投資家向けに募集して大きな成功をおさめました。 新国債ファンドは、直利が低かった六・一国債や六・六国債などを主要な運用対象とする公社債投資信託ですが、いわゆるアキユムレーション方式を採用することにより、年平均予想利回りを八・八%前後と高水準とすることに成功し、このため新国債ファンド設定額は、業界合計八八○○億円と、単一商品としては、市場空前の規模となりました。
アキュムレーション方式とは、本来、満期まで受け取ることのできない償還差益を前倒しに分配する方式です。 例えば、投資家が六・一%国債を八五円で購入したとしましょう。
この国債は満期時には一○○円で償還されますので、一五円の償還差益が将来発生しますが、直利は七・二%しかなく、金利が八%台に達している時期には直利志向のある投資家にとって魅力に乏しい存在です。 しかし、新国債ファンドのアキユムレーション方式では、組み入れ債券の償還差益を期日までの日割り計算で有価証券売却益として計上し、債券利息とともに、収益分配に当てることにより、高利回りを実現させ、低直利債を間接的に機関投資家に保有させることに成功しました。
変額保険の例八六年秋に発売された変額保険は、「運用資産の市場価値の保険給付への反映」という商品特性から、売却・評価損益の契約者への還元が認められており、保険業法八六条は適用されませんでした。 こうした運用・調達形態へのシフトによって、長期的には、生保等の機関投資家の直利志向によるひずみは次第に解消されてきています。
このように、制度的要因が債券間の本来の利回りに基づく金利裁定を妨げている場合には、市場に発生する超過利潤の存在が規制回避的に金融革新を促し、こうした制度を長期的には維持困難なものとしていく圧力として作用します。 ここでの話をまとめておきます。
金利自由化・金融革新は、受取金利を引き上げ、支払金利を減少させる、ないし利用者にとっての利便性を高める働きがあり、そのことによって資金移転をより円滑化させると考えられますから、それ自体としては好ましい働きを持つものと言えます。 問題は、このような金融革新がなんらかの副作用(例えば銀行の破綻が起こりやすくなり、そのことによって人々の銀行に対する信頼が低下し、決済システムの円滑な機能が損なわれる)を生む可能性がどの程度あるか、という点であると言えましょう。

ただし、仮に金融革新が金融システムの安定性を損なうおそれがあるとしても、規制の再導入ないし強化では問題の本質的解決にならない可能性が強いことに注意しておく必要があります。 なぜなら、多くの金融革新は規制による超過利潤の発生に誘発されるものであり、仮に規制の導入・再強化で一時的にシステムの安定性が確保されたとしても、それは新たな規制回避技術の開発を誘発し、さらに新たな規制が必要となる、といった民間金融機関と監督当局の果てしないイタチごっこをもたらすおそれが強いからです。

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